むし歯治療などで歯を削ったり、歯を失ったとき、人工素材で歯を補うことを補綴(ほてつ)と呼びます。
補綴で用いられる素材は多種多様です。日本の歯科治療では、古くから一般的な銀歯(金銀パラジウム合金)のほか、1980年頃までは水銀を含むアマルガムの詰め物を使っていた時代もありました。その後、プラスチック樹脂の白い素材であるレジンが普及すると共に、セラミックの詰め物・被せ物へと進化し、現在に至ります。
今回は、「補綴治療の歴史 セラミックの詰め物・被せ物への進化」のお話です。
目次
■昭和30年代前半からおなじみの「銀歯」
◎安価に、保険で歯を補える素材
現在、一般的に用いられる代表的な保険の歯科素材には、銀歯があります。
銀歯は通称で、正式名称は「金銀パラジウム合金」です。銀歯は銀のみで作られている、と思っている方が多いのですが、銀歯は銀のみではありません。銀歯(金銀パラジウム合金)は金が12%程度含まれているほか、銀が50%、パラジウムが20%、銅が16%、その他(亜鉛、インジウム、イリジウムなど)が2%で構成されています(※)。
(※)メーカーによって組成の割合が異なります。
日本において、銀歯は昭和30年代前半から用いられている“おなじみの素材”です。海外でもかつては歯科の補綴素材として銀歯が用いられていたのですが、パラジウムなどの金属が金属アレルギーを起こすおそれがあるほか、詰め物・被せ物と歯との密着性が悪く二次カリエス(治療をした歯が再びむし歯になること)になりすいことから、今では、日本以外の国では、銀歯はほぼ使われなくなっています。
上記の理由により、世界でもいまだに銀色の詰め物・被せ物をしているのは日本人がほとんどです。銀歯は「日本人特有の銀色の歯」として、海外メディアにて、珍しい物を見るような形で紹介されることも。
■1980年頃まで使われていた、水銀を含む素材「アマルガム」
◎明治時代から長く使われていたものの、水銀中毒の可能性により保険適用から除外
銀歯と似た色をした、銀色の金属の歯科素材には、かつて1980年頃まで日本の歯科治療で一般的に用いられていた詰め物の材料「アマルガム」があります。
アマルガムは水銀を含む歯科素材です。無機水銀が40~50%、銀が35%、スズが9%、銅が6%、その他(亜鉛など)が数%で構成されています(※)。
(※)メーカーによって組成の割合が異なります。
水銀を含むアマルガムは柔軟性が高いため歯に適合しやすく、1800年代から、日本を含む世界各国で歯を補う材料として使われていました。
日本では、明治時代から1980年頃に至るまで、歯科の補綴素材として、長いあいだ、アマルガムが使われていたのですが、水銀中毒をひき起こす可能性があるとして、1990年代からは使用が自粛されるようになりました。その後、2016年には国の規定によってアマルガムの保険適用が除外され、現在では、日本国内の歯科医院ではアマルガムは使われなくなっています(使用禁止ではなく、保険適用の除外のみ)。
{アマルガムの詰め物の除去を行っています}
ファミリアデンタルオフィスでは、アマルガムの詰め物の除去を行っています。
水銀中毒をひき起こす可能性があり、危険なアマルガムの詰め物は、できるだけ早く除去することをおすすめします。
アマルガムの危険性については、ブログにてご説明しています。併せてご参照ください。
■保険の白い詰め物・被せ物の素材「コンポジットレジン」
◎1980年代以降から、コンポジットレジンでできた保険の白い詰め物が一般的に
保険のむし歯治療で用いられる物には、銀歯のほか、保険の白い詰め物・被せ物の素材である「コンポジットレジン」も代表的な存在として挙げられます。
コンポジットレジン(CR)とは、プラスチック樹脂のレジンにガラスセラミックの粒(フィラー)をミックスした歯科素材です。むし歯治療などで歯医者さんから「白い詰め物をしますね~」と言われ、ペースト状のコンポジットレジンを充填し、白い詰め物がお口の中にある方も多いのではないでしょうか。
コンポジットレジンは1960年代に開発されたものの、今よりも材質がもろく、固まるまでに時間がかかっていました。日本において、歯の詰め物の素材として一般的にコンポジットレジンが使われるようになったのは、1980年代以降です。
1980年前後、光を当てることでコンポジットレジンを速く固める技術が開発され、保険の白い詰め物としてコンポジットレジンが使われるようになりました。現在では、詰め物に加え、硬質レジン前装冠など、保険の白い被せ物(前歯の被せ物)にもコンポジットレジンが用いられています。
保険で選べる白い歯科素材として一般的なコンポジットレジン。同じく保険の歯科素材である銀歯と比べた場合、コンポジットレジンは歯への密着性は良いです。しかし、吸水性が高いプラスチック樹脂でできているため、コンポジットレジンの詰め物・被せ物は着色しやすく、経年劣化によって補綴物の割れや欠けが起きやすいデメリットも。
■セラミックの詰め物・被せ物の進化 割れにくく・欠けにくいジルコニアセラミックの登場
◎金属の土台にポーセレンセラミックを焼き付けたメタルボンドが主流だった時代
歯を補う歯科素材には、保険素材のほか、自由診療(自費)で用いるセラミックがあります。
かつて、日本では、1950年代から50年以上にわたり、セラミックの被せ物と言えば、金属の土台にポーセレンなどのセラミックを焼き付けた「メタルボンド」が一般的でした。
◎2000年代中頃~2010年代以降は、「割れにくく・欠けにくい」ジルコニアセラミックが主流に
メタルボンドのほか、日本では、ポーセレンセラミックなど、透明感に優れ美しさがある長石系ガラスセラミックで詰め物・被せ物全体を作るオールセラミックも用いられていました。しかし、長石系ガラスセラミックによるオールセラミックの補綴物は強度が弱く、詰め物・被せ物の割れや欠けが起きるケースもありました。
その後、2000年代中頃になり、ジルコニウム鉱を原料にした強度が高いセラミック「ジルコニア」が登場。強度が高いジルコニアの登場により、以前と比べて、現在は(ジルコニアが素材の)セラミックの詰め物・被せ物の割れや欠けは起きにくくなっています(※)。
(※)ジルコニアセラミックの詰め物・被せ物が100%、
割れや欠けを起こさない訳ではありません。
ジルコニアの素材も、以前の従来型ジルコニアは光を透しにくく歯の白さの再現性の面ではイマイチだったのですが、その後登場した、光を透しやすく透明感に優れた高透光性ジルコニアにより、今では、被せ物全体がジルコニアでできたフルジルコニアを前歯にも適応可能になりました。
歯科用セラミックの主流となったジルコニアのほか、2009年には二ケイ酸リチウムガラスによりしなやかさと強度を高めた透明度の高いガラスセラミック「e-max(イーマックス)」も登場。現在もなお、歯科素材としてのセラミックは進化を続けています。
【今後も、歯やセラミックに関する情報をブログ上でお届けしていきます】
今回は、「補綴治療の歴史 セラミックの詰め物・被せ物への進化」のお話をさせていただきました。
当院では、今後も、皆様にご興味を持っていただけるような、歯やセラミックに関する情報をブログ上でお届けしていきます。お手すきの際は、ブログをご覧いただければ幸いです。
– セラミック治療の無料相談を行っています –
ファミリアデンタルオフィスでは、セラミック治療に関するご質問やご希望をお伺いしております。セラミックの詰め物・被せ物をご検討中の方はぜひ、当院の無料相談をご利用ください。
カウンセリングでは、歯科医師が患者様のお話を詳しくお伺いし、1人ひとりの方に合った治療方法・素材をご提案いたします。