
下の前歯と歯の重なり、親子で似るところと似ないところ
「私も出っ歯だから、息子の歯並びも遺伝なのかも」。健診で噛み合わせを指摘されると、まず親子の共通点を探したくなるものです。
ただ、下の前歯が前に出る受け口と、前歯が重なる叢生は、見ている場所も原因の候補も別物です。
この記事では、出っ歯との違いを整理し、遺伝、顎の成長、歯が並ぶスペース、口呼吸がそれぞれどう関わるのかを解説します。見た目だけでは原因を決めにくい理由と、相談前に家庭で記録しておきたいことも紹介します。
この記事の要点まとめ
- 出っ歯・受け口は前歯の前後関係、叢生は歯列の重なりを示します。
- 歯並びには遺伝のほか、顎の成長や生え替わり、口呼吸や舌・唇の癖も関わります。
- 噛み合わせや生え替わりを記録し、健診結果とともに歯科で原因や進め方を相談しましょう。
出っ歯・受け口・叢生は、見ている場所が違う

出っ歯と受け口は、上下の前歯が前後にどうずれているかを表す言葉です。叢生は、歯が列の中できれいに並んでいるかを表します。見ている軸が違うため、一人のお子さまに複数の特徴が重なることがあります。
| 呼び方 | 見ている場所 | 関わり得る要因 |
|---|---|---|
| 出っ歯 | 上下の前歯の前後関係 | 上の前歯の傾き、上下の顎の位置 |
| 受け口 | 上下の前歯の前後関係 | 下の前歯の傾き、下顎の成長 |
| 叢生 | 歯列の中の並び方 | 顎の大きさと歯の大きさの釣り合い |
表に挙げたのはあくまで目安です。実際には、いくつかの要因が組み合わさっていることが少なくありません。
出っ歯は上の前歯と下の前歯の位置関係を見る
出っ歯(上顎前突)は、上の前歯が下の前歯より大きく前に出ている状態です。上の歯が前へ傾いて起こる場合もあれば、上下の顎の位置関係が関わる場合もあります。
口呼吸では、唇周りの筋力や舌の位置が変わり、上顎前突につながることもあります1。歯の傾きだけでは説明しきれないケースもあるわけです。
受け口は下の前歯が前にある噛み合わせ
受け口(反対咬合)は、噛んだときに下の前歯が上の前歯より前に出ている状態です。下の歯の傾きが主な要因の場合と、下顎の成長や上下の顎の位置関係が関わる場合があります。外から見ただけでは、この二つを区別するのは難しいものです。
「顎の形のせい」と家庭で決めつけず、どちらの要素が大きいかは診察で確かめましょう。
叢生は歯が重なったり、ねじれたりした状態
叢生(そうせい)は、歯が重なる、ねじれる、列からはみ出すといった状態です。歯並びがガタガタ、デコボコに見えるときに使われ、八重歯も叢生の一つにあたります。
重なった部分には歯ブラシの毛先が届きにくく、磨き残しがたまりやすくなります。仕上げ磨きのときに歯ブラシが入りにくい箇所がないか見ておくと、相談するときの手がかりになります。
受け口と叢生が同時に見られることもある
前後の噛み合わせと、歯が並ぶスペースは別の問題です。そのため「下の前歯が前に出ていて、しかも重なって生えている」という組み合わせは珍しくありません。
口呼吸の子どもでは上の歯列の幅が狭い傾向を示した報告もあります2。スペースの不足と噛み合わせのずれが気になる場合は、歯科医師にご相談ください。
歯並びの原因は遺伝だけ?成長や口呼吸との関わり

歯並びには遺伝も関わり得ますが、遺伝だけで決まるわけではありません。顎の成長、歯の大きさ、乳歯の生え替わり、口周りの習慣が影響し合って、今の歯並びになっています。
ポイント
歯並びの原因は一つとは限りません。遺伝、成長、習慣のどれが大きく関わっているかは、お子さまごとに確かめていく必要があります。
親が出っ歯でも、お子さまの受け口まで遺伝とは限らない
顎の大きさや形、歯の大きさは、親子で似ることがあります。一方で、親は出っ歯なのにお子さまは受け口や叢生、というように、噛み合わせのタイプが違って現れることもあります。
「もっと早く気づいていれば」と自分を責める必要はありません。今の状態を確かめるところから始めれば大丈夫です。
顎の成長と歯が並ぶスペースは別々に確かめる
叢生は、顎の大きさに対して歯が大きく、並ぶ場所が足りないときに起こりやすくなります。乳歯がむし歯などで早く抜けた場合、永久歯が並ぶ場所への影響には個人差があるため、歯科医師にご相談ください。
受け口は、顎の前後の成長が関わる場合があります。叢生と受け口は、それぞれ別の原因を持っていることがあると知っておくと、診察での説明が理解しやすくなります。
口呼吸と舌・唇の癖は歯並びにどう関わる?
口呼吸の子どもは、鼻呼吸の子どもと比べて、顔の骨格の成長の向きや下顎の位置に違いがみられると報告されています3。上の歯列では犬歯間や奥歯の間の幅が狭い傾向を示した研究のまとめもあります2。
指しゃぶり、舌で前歯を押す癖、下唇をかむ癖も、歯の傾きに影響することがあります。ただし口呼吸の背景に鼻づまりや扁桃の大きさが隠れていることもあり、口呼吸だけを原因とは言い切れません。耳鼻いんこう科で鼻の通りを確認したほうがよい場合もあります。
口の体操だけで歯並びを直そうとしない
「あいうべ体操」のような口周りの体操は、唇や舌の筋肉を意識するきっかけになります。とはいえ、早期の矯正治療や口周りの筋肉の訓練について調べた研究では、有望とされる一方、既存の根拠の質には課題があるとされています4。
鼻の通りが悪いまま強く続けたり、歯の位置の問題を体操だけで解決しようとしたりすると、本来の原因を確かめるのが遅れることがあります。体操を取り入れるかどうかは、呼吸や舌の状態を診てもらったうえで決めるとよいでしょう。
成長中のお子さまは、何を記録していつ相談する?
健診で指摘を受けた時点が、相談を考えるきっかけになります。受診の前に普段の様子を記録しておくと、診察で確かめる点を絞り込みやすくなります。
前歯の噛み合わせと生え替わりを家庭で記録する
次のような点を、気づいたときにメモや写真で残しておきましょう。
- 噛んだときの上下の前歯の位置(正面と横からスマートフォンで撮影)
- 重なっている歯や、歯ブラシが入りにくい場所
- 乳歯が抜けた時期と、永久歯が生えてきた順番
- テレビや宿題の最中に口が開いている時間、寝ているときのいびき
- 食べにくそうにしている物や、片側だけで噛む様子
歯の重なりは磨き残しにつながり、噛み合わせのずれは食べ物の噛みにくさとして現れることがあります。肩こりや顎の不調については、歯並びだけが原因とは限りません。また、マッサージで噛み合わせそのものが変わるわけではない点も知っておきましょう。
歯の傾きか顎の位置かは、診察と検査で見分ける
歯科医院では、噛み合わせ、生え替わりの進み具合、歯列のスペース、顎の成長を確認します。必要に応じてレントゲン写真や歯型、顔の写真を使い、歯の傾きによるものか、顎の位置関係による部分が大きいのかを見ていきます。
歯科用CTによる撮影が行われることもありますが、撮影するかどうかは症状と必要性を踏まえて歯科医師が判断します。全員に行う検査ではありません。
受け口と叢生が重なる場合も、装置を先に決めない
特徴が複数ある場合は、顎の成長と歯が並ぶスペースのどちらから考えるのかを整理してから、進め方を検討します。早い段階での矯正治療や口周りの機能への働きかけについては一定の報告がある一方で、研究ごとに対象や質の差も指摘されています4。
ポイント
経過観察か治療開始か、マウスピース矯正かブラケット矯正か、抜歯矯正か非抜歯矯正かは、成長段階と検査結果を踏まえて一人ひとり判断します。
矯正治療の主なリスク・副作用
矯正治療では、次のようなことが起こる場合があります。
- 装置を付けた直後や調整後の歯の痛み、噛んだときの違和感
- 装置が頬や唇に当たってできる口内炎
- 磨き残しによるむし歯や歯茎の炎症
- 歯の根が短くなる(歯根吸収)、歯茎が下がる
- 顎の関節の痛みや音
- 治療後の後戻り
治療を始める前に、こうした点も説明を受けておきましょう。
相談するときは健診結果と普段の様子を伝える
受診するときは、学校健診の用紙、家庭での記録や写真を持参し、気づいた時期や口呼吸、いびきの様子も伝えてください。学校や習い事との両立、通院の頻度についての希望も、遠慮なく話していただいてかまいません。
お悩みやご希望はそのまま伝え、顎の成長に合わせた進め方について説明を受け、納得したうえで次の段階へ進むことが大切です。治療を決める前に、通院の負担や経過観察の見通しも確認しておくとよいでしょう。
まずは健診の用紙と、1週間分の口元の記録をそろえるところから始めてみてください。
よくある質問
Q. 歯の叢生とは何ですか?
A. 歯が重なる、ねじれる、列からはみ出すなどして、歯並びがガタガタ、デコボコに見える状態です。八重歯も叢生に含まれます。顎の大きさと歯の大きさの釣り合いや、乳歯が早く抜けたことなどが関わると考えられています。
Q. 出っ歯になる原因は何ですか?
A. 上の前歯が前へ傾いている場合と、上下の顎の位置関係が関わる場合があります。指しゃぶりや舌で前歯を押す癖が気になる場合は、歯科医師にご相談ください。口呼吸との関連も報告されています3。どの要因が大きいかは、診察と検査で確かめます。
Q. 顎の骨格が原因だと手術になりますか?しんどいですか?
A. 成長期のお子さまは、まず顎の成長を見ながら進め方を検討します。成長が終わったあとに顎変形症と診断され、外科手術を伴う矯正を行う場合は入院が必要です。術後の腫れや食事のしにくさの程度には個人差があるため、詳しくは担当医にご相談ください。
Q. 子どもの矯正治療の費用はどのくらいかかりますか?
A. 歯並びを整える矯正治療は、一部の疾患による場合を除いて自由診療(公的医療保険が適用されない)です。費用は装置の種類や開始時期、治療期間によって変わります。
永久歯が生えそろう前に行う第1期治療(顎の成長を利用する治療)は、治療期間や通院の頻度、費用が、お子さまの成長や歯並び、使用する装置によって異なります。永久歯が生えそろったあとに歯全体を並べる第2期治療を追加する場合も、治療期間や通院の頻度、追加費用には個人差があり、診察を踏まえて歯科医師が判断します。総額には、検査・診断料、装置代、毎回の調整料、治療後の保定装置(後戻りを防ぐ装置)の費用が含まれるかどうかで差が出ます。調整料を別にしている医療機関では、その費用も医療機関によって異なります。これらは当院の費用を示したものではありません。個別の費用は、診察を受けたうえで担当の歯科医師から説明を受けて確認してください。
治療中や治療後には、次のようなことが起こる場合があります。
- 装置を付けた直後や調整後の歯の痛み、噛んだときの違和感
- 装置が頬や唇に当たってできる口内炎
- 磨き残しによるむし歯や歯茎の炎症
- 歯の根が短くなる(歯根吸収)、歯茎が下がる
- 顎の関節の痛みや音
- 装置の破損や、マウスピースの装着時間が足りないことによる治療期間の延長
- 治療後に保定装置を使わない場合などの後戻り
Q. 歯並びと肩こりは関係ありますか?
A. 噛み合わせが顎周りの筋肉の緊張に影響するという考え方はありますが、肩こりには姿勢や生活習慣など多くの要因が関わります。歯並びだけが原因と決めつけず、気になる症状があれば受診時にあわせて伝えてください。
参考文献
1. 歯列不正 | KOMPAS – 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト. https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000216.html
2. Lekvijittada K, Uengkajornkul P, Changsiripun C. Dental arch dimension and palatal morphology in children and adolescents with mouth breathing: a systematic review and meta-analysis. BMC Oral Health. 2026. PMID: 42026531 / DOI: 10.1186/s12903-026-08349-9
3. Zhao Z, Zheng L, Huang X, et al. Effects of mouth breathing on facial skeletal development in children: a systematic review and meta-analysis. BMC Oral Health. 2021. PMID: 33691678 / DOI: 10.1186/s12903-021-01458-7
4. Koletsi D, Makou M, Pandis N. Effect of orthodontic management and orofacial muscle training protocols on the correction of myofunctional and myoskeletal problems in developing dentition. A systematic review and meta-analysis. Orthodontics & Craniofacial Research. 2018. PMID: 30152171 / DOI: 10.1111/ocr.12240
2009年 朝日大学附属病院 勤務
2010年 医療法人社団 健誠会 ケンデンタルクリニック 勤務
2015年 医療法人社団 健誠会 ケンデンタルクリニック 副院長就任
2017年 医療法人社団 健誠会 IDC国際歯科クリニック 兼務
2020年 ファミリアデンタルオフィス 開院
日本歯科審美学会 会員
日本歯周病学会 会員
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